
トンネル効果:量子の世界の不思議な力
私たちの身の回りにある物は、壁にぶつかると跳ね返ります。例えば、ボールを壁に投げると、反対方向に跳ね返ってきます。また、山の頂上へボールを投げるには、山の高さを超えるだけの速さで投げなければなりません。もし、ゆっくりと投げた場合は、途中で落ちてしまい頂上に到達することはありません。これらは、私たちが日常で経験する当たり前の出来事です。物体が壁を通り抜けることは、私たちの常識では考えられないことです。
しかし、原子や電子といった極小の世界では、私たちの常識とは全く異なる不思議な現象が起きます。それが「トンネル効果」と呼ばれる現象です。この現象は、粒子が、まるで壁をすり抜けるかのように、ある場所から別の場所へ移動することを指します。例えるなら、山を登る代わりに、山を貫通するトンネルを掘って向こう側へ抜けるようなイメージです。古典物理学、つまり私たちの日常世界を支配する物理法則では、粒子がエネルギーの壁を乗り越えるには、壁の高さ以上のエネルギーが必要です。しかし、トンネル効果では、壁の高さよりも低いエネルギーしか持たない粒子でも、壁を通り抜けることが可能です。まるで魔法のように思えますが、これは量子力学と呼ばれるミクロの世界を支配する法則によって説明される現象です。量子力学では、粒子は波としての性質も持ち、この波の性質によって、エネルギーの壁を一定の確率で通り抜けることができるのです。この確率は、壁の厚さや高さ、粒子のエネルギーなどに依存します。壁が薄く、粒子のエネルギーが高いほど、通り抜ける確率は高くなります。逆に、壁が厚く、粒子のエネルギーが低いほど、通り抜ける確率は低くなります。まるで、薄い壁の方がトンネルを掘りやすいのと同じです。